i-ha’s light conversation

AMV/MAD、動画編集がメイン。アニメ、マンガ、小説等の感想もたまに呟きます。

【iha's column】 AMV/MADから、人が感動するシステムに迫る


※ 2019/7/21改定

AMV/MADから、人が感動するシステムに迫る

まず最初に、簡単な事なのですが、間違い易い、大切な事を書いて置こうと思います。

心理学的に言うと、「感動する作品」等と言う物はありません。
「人が作品に感動する」だけです。

どんなに素晴らしい作品を作っても、作品が人を感動させる事はありません。
人がその作品に感動するかどうかです。

作品  → 視聴者 ×
視聴者 → 作品  ○

矢印で表すと、この様な感じです。
この方向性を間違ってしまうと、以下の解説も勘違いしてしまいます。

勿論、一般的に「感動する作品」等と言うのは、間違った表現ではありませんので、それを否定する物ではありません。

また心理学に関する項目が多々出て来ます。
心理学は悪用すると相手の行動を操れる危険な物です。

絶対に悪用しない様に、宜しく御願い致します。



■ 感動のメカニズム

主に、二つの原則があると言われています。

① 人は自分が関心のある事にしか感動しない。
② 感動は不快の情動が快の情動に転換する時に発生する。

AMV/MADで言うと、まずはそのアニメ作品や曲、制作者に興味があるかどうかです。

どんなに素晴らしいAMV/MADでも、アニメが嫌いな人を感動させるのは難しいです。

例えば、普段アニメを見ないおばさんたちを、アニメで感動させようと思ったら、イケメンで有名な芸能人を声優に起用すれば良いのです。

AMV/MADなら、一般にも受ける曲を使った方が、客層が広がり有利です。
アニメ好きはアニメが使われているだけで感動の素地があるので、曲までアニソンにするのは無駄な訳です。

有名芸能人を使用すると言うのは、一歩間違えると、アニメファンも、一般の人も、どちらもを敵に回しかねない危険な手法でもありますが、知っておいた方が良いかと思います。

②の、不快→快への移行は、どの様な時にも有効です。

これは、洗脳や詐欺でも良く用いられる手法で、わざと相手にストレスを掛けてから、開放します。

普通の掃除機を持っている人に、粗悪な掃除機を使ってみせ、その後、新しいけど能力的には普通の掃除機を使い、「これが新しい掃除機の力です!」と言えば、買ってしまいます。似たような能力の掃除機を持っていてもです。

非常に問題のある手法なので、モラルを持って使用して下さい。
勿論、金銭の絡まない、ファン活動としての動画なら、殆ど問題はありません。

苦しんで苦しんで、絶望してからの開放。
溜めて溜めて、極限まで溜めてからの攻撃。

どんどん使用して、その手法を学んで行って下さい。


通常、感動のメカニズムと言うとこの二つで終わってしまうのですが、AMV/MADを作っている私達から見ると、色々足りない要素がある事が見えて来ます。

以下は私の考えであって、一般的な物ではありませんので是非注意して下さい。



■ カタルシス

カタルシスは演劇用語で、鬱積した心を一気に開放する様な演出を指します。

暗闇から、光指す場所へ。
静かな曲調からの、激しいリズム。

訓練して、訓練して、訓練してからの勝負。
階段を登って、登って、登って、広がる景色。

すれ違って、すれ違って、すれ違って、抱き合う恋人。
戦闘機が、敵の攻撃をかわして、かわして、かわして、相手を撃墜。

暗い夜、寒い山の中、一人で途方にくれていた中に貰った、カップラーメンカレー味。
などですw

②の不快→快の情動と殆ど同じですが、この様な構成を是非狙って、動画にも組み込んで頂ければと思います。

※ このテクニックの分かり易い事例を一つ御紹介してみます。
進撃の巨人」はピンチが多く、この構成を作るのに向いています。
しかし、それと同時に、エレンが巨人化して活躍する前に、リヴァイやミカサの活躍シーンを挟みがちです。
これだと、フラストレーションが一気に発散されず、動画が単調に見えてしまうので、御注意頂ければと思います。



■ ストーリー

見ている人が分かる程度に、きちんと背景を説明する事です。
ここを疎かにして、クライマックスだけを使っても感動は生まれません。

戦闘シーンばかりを繋いでしまっても、感動は生まれません。
残念ながら複合MAD(various)が、あまり感動しないのは、殆どがこのせいです。

複合MADを作る場合でも、逆境のシーンを繋いでから、攻撃に移ったりすれば、全然感動の度合いが違うと思います。


■ ホロニックマネージメント

こちらはビジネス用語です。
一人一人がきちんと機能し、組みあがり、全体のポリシー、目標を体現します。

動画なら、一人一人のキャラクターが、きちんとテーマに沿って配置され、最後に一つになる感じでしょうか?

合作(MEP)の場合、制作者達が上手く組み合わさった時にも、この感動が得られると思います。



■ 視覚

脳は主に動き・形・色を別々の部位で処理し、それを再統合して認識します。

動きは緩から急へ。
形状は単純な丸や四角から複雑な人物や機械へ。
色は暗から明へ。原色から複雑な模様や金属の様な光へ。

基本的には、これらを意識すれば、快感・感動を得られやすいと言われていますが一つ注意です。

これらは別々の場所で認識していますので、これを組み合わせてしまうと、処理が追い付かなくなるのです。
これらの演出は、一つずつ使って下さい。

赤は鮮やか。青はクール。緑は安らぎ。
シンメトリーは美しく。ピラミッド型は硬い。

この様なイメージも、使用する時に重要となります。

それと、記号やデフォルメは、単純ゆえに快感となりえます。
認識が楽なのです。意識して是非使ってみて下さい。
アニメが実写よりも快感を得易いのは、このせいでもあると思われます。

もう一つ、表情や身体の動きなど、言語以外の身体情報は、快感をもたらします。
これも意識して使っても良いと思います。


■ 聴覚

心拍や呼吸などを含めて、聴覚も快感や感動に深く関係しています。
古来よりダンサブルな音楽は16ビートであったりする訳で、単純に快楽を与えたいなら16ビートなど、アップテンポの曲を是非使いましょう。

アップテンポの曲は、戦闘などの緊張をもたらす物。
スローテンポの曲は、じっくり見せたり、癒しに使います。

選曲の時に、歌詞だけ合っていても、ここがズレてしまう事が、たまにあります。
通常は、歌詞にあったテンポになっている筈なのですが、変調したりもしますので複雑です。

他にも、澄んだ音色は美しく、無音は不安をイメージ。
低音は安定と静かな高揚。
高音は前進や闘争、苛立ちを意味します。

リズムに合わせるのも大切です。
ただし、合わせるだけでは印象に残りません。
一度止めたり、わざとリズムを外したり、サビで加速させるなどのテクニックは、とても有効だと思います。

一応ですが、α波などの可聴域を超える高周波も人体に影響を与えている様ですが、そこまで意識して選曲するのは難しいと思います。聴こえませんからw

因みに、激しい音が落ち着くなどと言う、普通でない人も存在します。
もしも自分がそうなら、なかなか難しい事になるかも知れません。



■ 共感

共感は、感動する上で、とても重要です。
自分に似ている、感情移入出来るキャラクターは、感動をもたらすのに絶大な威力を発揮します。

これは全く知らないアニメ、キャラクターのAMV/MADだったとしても、自分と同じ境遇が演出されていたら、ぐっと感情移入し易くなると言う事です。

キャラクターの、共有し易い悩みや苦しみは、是非、最初の方に盛り込んで下さい。

またそれとは逆に、普通の人では共感出来ない事で、共感出来た時の感動は、普通よりも激しい物になる傾向があります。

マイナーなネタを知っていたと言う共感は、それだけでも一種の感動を呼び起こすほどです。
しかしこれは諸刃の剣で、普通の人には見向きもされない可能性が高いので、動画に使用するには注意が必要かと思います。

ニコニコ動画のコメントなど、視聴者同士の共感と言うのも、感動に繋がります。
書き込まれるコメントを意識して動画を作るのも、立派なテクニックと言って良いかと思います。


■ IRI

共感のしやすさ(共感力)を測定するテストとして、対人性反応性指標(interpersonal reactivity)IRIがあります。

① 他者の幸不幸に同情する気持ちを評価する「共感的配慮」
② 他者の立場に立って物事を考える事が出来るかを評価する「視点取得」
③ フィクションの人物に感情移入出来るかを評価する「空想」
④ 他者の不幸な境遇を我が身に置き換えて恐怖を感じる「個人的苦悩」

IRIは主に、この4つで出来ています。

AMV/MADにこの概念を用いるなら、この様な感じでしょうか?

① 不幸を描き同情を買う。幸運を描き共に快感を得る。
② 様々な人物の立場を描き、複雑さを演出する。
③ あり得ない事を、さもあり得る事の様に表現する。
④ 感情移入させた挙句に恐怖まで感じさせる。(AMV/MADの場合、ストレスを増大させ、その後解放する、いつもの手法)

人はそれぞれ、これらの共感値が違います。
なので、どの様な演出をすれば良いと言う正解はありません。

ですが是非、意識して利用して頂ければと思います。

因みに、どれにも全く共感しない人は、サイコパスと呼ばれる訳で、そう言う人もいますw


■ 共感に関する雑談(読み飛ばして構いません)

共感とは、実際には本当に感情を共有している訳ではありません。幻想です。
だからこそ、2次元のキャラクター等に共感出来るとも言えます。

一般に女子は、男子よりも共感力が高い等と言われます。
女は「共感脳」で、男は「競争脳」などとも言われます。

女子は友達が新しい玩具を持っていたら同じ玩具を欲しがり、男子はそれよりも凄い玩具を欲しがると言う物です。

女子は、何か問題があって相談していたとしても、実は解決法など求めていません。
その問題に対して共感して欲しいだけなので、情報も一方的で欠けています。

それなのに男子はそれに対して、解決法を提示して来ます。
情報が欠けているので、勿論上手く行きません。

それどころか、相談した女子が悪いと思ったら、普通にその女子の問題点を指摘してしまいます。

そんな事は求められていません。
女子は解決して欲しいとは思っていませんし、自分を変えたいなんて尚更思っていません。

日常生活の問題よりも、心の方が大切なのです。
問題の解決は難しいので、それは諦めて心の安定だけ図っている訳です。

共感者を増やして、勢力争いをしているとも言えますが。

女子の考える「共感」とは、殆ど「同意」と同義です。
この場合の「共感力が高い人」と言うのは、「この人だったら分かってくれる」と言う安寧です。

これは女子にありがちな事だと言われますが、弱者全般にも言えます。

例えば被災者や障害者に、「あなたの気持ちが分かる」などと言ってはいけません。
被災者が「辛い」と言ったら、「辛いのですね」と繰り返すのです。

これは「オウム返し」や「バックトラック」と呼ばれるカウンセリング手法です。

しかしこれは本来、世界を狭める事に繋がります。

共感者だけで固まるのではなく、別の意見を是非聞いて下さい。
そして、きちんと解決策を模索して下さい。



■ 悟り

世阿弥は能の大家で、脚本なども書いていたのですが「感動とは珍しさのこと」と言っています。これは「悟り」に近い概念だと言われています。

「悟り」とは、新たな「発見」でもあるからです。
勿論「悟り」は、ただの「発見」などではなく、人生を変えるほどの発見です。

これが出来る動画と言うのは、とても凄い物であるのは間違いありません。
しかし逆に、これが出来る動画は、実は一般には受け入れられないかも知れません。

悟りとは、ほんの一握りの人にしか起こらない物だからです。

カラスの鳴き声や、小石の音で悟った人もいるくらいです。
何が「悟り」をもたらすかは、分からないのです。

この「悟り」と言う手法で動画を作る時に感動を与えようと思ったら、見た事のあるアニメに、新たな発見か、技術を加える必要があるかと思います。

この手法で、特に技術力で、相手を感動させるのは難しいです。
何故なら、誰も使っていない様な技術でないと、感動して貰えないからです。

例えば動画のタイトルを自作するのはとても良い事なのですが、それが誰でも思い付く様な物であるのならば、OP映像をそのまま使っても、感動に関しては、ほぼ変わらないと言って良いでしょう。

逆に、技術に興味のある人を感動させるには、絶対に技術力を注ぎ込む必要があります。
動画作家の殆どは技術に興味がありますので、視聴者としてそれを想定するなら(動画作家の投票が重要なコンテストなど)頑張って工夫する甲斐があるかと思います。

ストーリーや、キャラクターに関する、閃き、発見などは、技術力による「悟り」よりは、簡単かと思います。
それを表現するのは、やはり難しいですが……

この様に「悟り」≒「発見」の使用は難しい物ですが、是非チャレンジして欲しいと私は思います。

「悟り」と言うほどではなくても、人間は極端な物にも感動します。
とても大きな物や、凄く細やかな物。大きな音、小さな音。急激な変化。

これらは、あなたの動画を、大きく印象的な物にするかと思います。
成功か失敗かは別として。

世阿弥は『風姿花伝』の中で、「花と面白きと珍しきと、これ三つは同じ心なり」「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」とも言っています。

これは能の中で、わざと情報を秘匿して、最後に明かすと言う手法です。
これは、なかなかに動画に使い易い概念かと思います。

そのアニメの最後がどうなるかなど、視聴者はみんな知っていると言うのに、それを感じさせない構成を作り上げ、最後にドーンと演出する。

スピードで押し切る。
テキストなどでミスリードする。

様々な手法が、考えられます。
皆様の発想を、是非大切にして下さい。


■ シンクロニシティ

ユングが提唱した概念で「意味のある偶然の一致」を指します。
ここでは「映像」と「歌詞」が、偶然に一致して「意味」を成している様を指す物とします。

これがビシッと決まった時の感動は、私が解説するまでもありません。
シンクロの度合いを上げる為に、歌詞を書いたり、映像を強調したりと、大勢の方々が、この手法での感動を追求しています。

逆に言うと、ここを疎かにして、感動を得ようと言うのは、自ら一つの武器、しかもメインウェポンを放棄するような物です。

「英語詞」や「インスト曲」の動画を作る時は、それこそ本気で、他の部分で戦える動画を、模索して下さい。



■ テーマ

タイトルや動画に、直接テーマを書いて、ひたすらそれを描くか、それに収束するような構成にする事です。

テーマはアニメのタイトルや、曲名となっていて、自然に訴求出来ている事もあります。
問題は、それを描く構成や演出力でしょうか?

動画制作者としては、とても重要な事だと私は思っていまして、過去の主催イベントでは、動画にテーマを付けるカテゴリーを作ってみたり、色々していました。

テーマの選び方も重要です。
上記で言及した「悟り」に近い物を使えると、感動は倍増するかと思います。


■ 熱量

熱い思いを持って物作りをしていれば、それが伝わった時、相手は感動します。

この場合の熱量には「映像や曲の制作者の熱量」AMV/MAD作家である、あなたの熱量」の2種類があります。

前者の「映像や曲の制作者の熱量」とは、熱量のある映像、熱量のある曲を使用する。
素晴らしい映像と曲を選ぶ。それだけです。

AMV/MADは、アニメと曲を選択した時点で、8割方成功度が見えるとも言われています。
簡単ですが、それくらい大事な作業だと、私も思います。

そして、素晴らしいシーン、曲に合ったシーンを選ぶと言う、シーン選択能力も重要となります。
あなたの熱も込めて、大好きなシーン、大好きなセリフを、是非盛り上げて演出して下さい。

ちなみに、静止画MADの場合は、そのシーンを作り上げる能力となり、ハードルがとても上がります。
動画MADの場合もですが、映像と曲に合ったシーンを、是非作り上げて頂ければと思います。


後者のAMV/MAD作家である、あなたの熱量」には、4つのパターンがあるかと思います。

① 時間を掛けて、一見して凄い、カッコイイ動画を作る。

単純ですが、これは強力な熱量です。
「悟り」の所でも語りましたが、その苦労が分かる、同じ動画製作者にはこの熱量が良く伝わります。

② 凝っている様に見せる、素材やツール、エフェクトの使用。

時間は有限なのですから、それを効率的に使うのは大切な事です。
これを手抜きだから、熱量が伝わらなくなるのではないかと言ってはいけません。

視聴者の殆どは、動画作家ではありません。
難しい技術も、ただのエフェクトも、見分けは付きません。

下手なエフェクトは必要ありませんが、簡単にカッコ良く見せるのは、プロにとっても重要な技術だと思います。

そして「作品が人を感動させるのではない。人が作品に感動するかどうかだ」と言うのは、こう言う事でもあると思います。

③ 一見して凝っているとは分からない、しかし、見易く、実は凝っている動画を作る。

「この動画見易いなぁ」「この動画、実は凄いんじゃないか?」と言うのは、きっと相手の感動を呼び起こす事でしょう。

④ 勢い

丁寧に作るのは大切な事ですが、わざと丁寧に作らないと言うテクニックです。

例えば、アニメーションの激しい動きを止めて見ると、人間とは思えない、とんでもない動きや、とんでもない身体をしている事があります。
小説では、何度も同じ様なセリフを繰り返していたり、体言止めを多用したり。

AMV/MADでも、この手法は利用出来ると思います。
画面が、とんでもない動きをしたり、大事な事を大きな文字で一瞬表示したり。

この勢いと言う手法ですが、本当に雑に作る事によっても、実は視聴者に伝わる事があります。

時間の無い中で、バーッと作った作品なのに、何となく迫力がある。
しかも、手直しすると、悪くなる。
アニメーターや漫画家、小説家ならば、誰もが経験した事のある事象です。

本当に手を抜いて良いと言う訳ではありません。
その時、集中していたからこそ生まれた、一瞬の奇跡なのだと私は思います。


■ 結論 熱量と言うのは、ほぼイコールで時間です。

好きであればこそ、その作品に、あなたの大切な時間を掛けられます。
忙しい中、疲れている中、頑張って作った作品ならば、実は、絶対に一人は感動します。

勿論、作ったあなたです。
是非、自分の作品を見て、涙出来るほど、頑張って作って下さい!

自分が好きな物を作る。それも大事です。

しかし、その自分の好きな物の中に、是非、「相手を感動させたい」「感動して欲しい」「感動出来る動画を作りたい」と言うのを、含めてあげて欲しいです。

どれだけ苦労しても、あなたの作品が、必ず誰かに感動してもらえる訳ではありません。
誰かが、あなたの作品に感動するかも知れない。ただそれだけです。

それでも、視聴者の目線に立って、是非もう一度、自分の作品を見つめ直し、感動出来る要素を増やしてみて下さい! 熱量を増やしてみて下さい!

そのお役に、少しでもこの記事がなっていたら幸いです!